香港では何が問題になっているのですか?

2020年06月01日

2020年5月28日、中国政府が全国人民代表大会の最終日に可決した「香港版国家安全法」です。これは、香港特別行政区内での中国政府に対する反逆、分離、転覆、テロ活動を禁止すること、さらには外国勢力の介入を禁止するための法律ですが、問題となる点が二つあります。

©Livedoor News

 そもそも香港がなぜイギリス領になったのか、またなぜ中国に返還されたのかについては「香港特別行政区」の項をご覧ください。現在問題になっているのは、2020年5月28日、中国政府が全国人民代表大会の最終日に可決した「香港版国家安全法」です。これは、香港特別行政区内での中国政府に対する反逆、分離、転覆、テロ活動を禁止すること、さらには外国勢力の介入を禁止するための法律ですが、問題となる点が二つあります。

 その一つが、これによって香港の住民の言論や表現の自由が合法的に制限されるようになることです。香港の民衆は「一国二制度」が50年間保証されているなかで、言論や集会、報道の自由を制限する法律を制定するのは望ましくないとの判断から、2003年に国家安全条例を制定しようと動いた董建華行政長官に対し大規模集会でNOを突き付けます。2019年には林鄭月娥行政長官が国家安全法の一角をなす逃亡犯条例の先行成立を急ぎましたが、200万人参加の大規模デモで同法案は廃案となりました。つまり、香港住民は、徹底して民主活動や言論に対する自由を求め続けてきたわけです。

 この様に、香港の民主活動家(中国政府にとっての反政府主義者)を取り締まるための法的根拠を中国政府は持ち合わせていませんでしたから、中国政府が香港の民主活動家を取り締まる際は、必然的に「非合法的に」拉致、監禁してきたわけです。2015年には中国政府に批判的な本を取り扱っていた銅鑼湾書店のオーナーなど関係者5名が中国側に拉致され監禁されるという事件が発生していますが、これなどは香港の民主化活動を弾圧する中国政府の非合法的関与の代表例と言えます。

 今回、香港特別自治区に対する「香港版国家安全法」が可決したことにより、中国政府が従来懸念材料としていた民主化勢力の取り締まりが合法的に可能になり、香港が、民意の如何にかかわらず、より効果的に中国中央政府のコントロール下に置かれることが確実視されています。

 さて、今回の国家安全法の採決に関しては、さらにもう一つ、より決定的な問題点があるのです。1997年の香港返還に至る交渉の中でイギリス側と中国側は返還後の香港の地位について話し合いを進め、1990年に「香港特別行政区基本法」を制定します。実はその第23条で、「香港特別行政区は、国家に対する叛逆、国家の分裂、叛乱の煽動、中央人民政府の顛覆及び国家機密の窃取の禁止、外国の政治的組織又は団体が香港特別行政区において政治活動を行うことの禁止、並びに香港特別行政区の政治的組織又は団体が外国の政治的組織又は団体と関係を構築することの禁止について、自ら立法を行わなければならない。(下線筆者)」と定められているのです。つまり今回の最大の問題点は、本来香港特別自治区立法会が行うべき「国家安全法」の制定が中国政府によって行われたことなのです。これは、香港特別自治区基本法に対する明らかな違反であり、その策定を定めた1984年の英中共同宣言という国際的な約束事を踏みにじる行為でもあるのです。香港特別行政区基本法がいわゆる「一国二制度」の根拠となっている以上、今回中国の全国人民大会で「香港版国家安全法」採択された時点で、「一国二制度」の前提が崩壊しているのです。

戻る