難民問題
ロヒンギャ難民 cc U.K. Foreign and Commonwealth Office
1.難民とは、どのような人のことを指すのですか?
1951年の「難民の地位に関する条約」の定義によると、難民とは、「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国以外にいる者、またはその国籍国の保護を受けることを望まない者」ということになっています。要するに、迫害を受ける恐れがあったり、実際迫害を受けたために国外に逃げた人を難民と呼んでいたわけです。
また難民が世界的問題になる前は、各国の対応もまちまちで、申請を受けた受け入れ国側が、一人一人審査して、最終的に難民として認めるかどうか決めるという作業が一般的でした。つまり、難民は、最初に避難した国が自分のことを難民だと認めなければ、難民にはなれなかったのです。実に悠長な話ですが、現在でも国によってはこの手法をとっているところが少なくありません。
しかしながら、特に冷戦後の混乱によって外部から侵略や占領を受けたために国外に避難した人々や、内戦によって国外退去を余儀なくされた人々などが急激に増加している昨今、上記の定義に当てはまらない「難民」の数が、従来の、いわゆる条約難民の数を大幅に上回っているような状況です。
1951年に設立された国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の初期の活動も、51年の「難民の地位に関する条約」と、66年の「難民の地位に関する議定書」という2つの、いわゆる難民条約の規定に制約されて、国内避難民や帰還した元難民、さらには難民と認められなかった庇護希望者などを無視せざるを得ませんでしたから、アフリカの難民(帰還した元難民の保護)やインドシナ難民(ボートピープルなど、難民として認められなかった庇護希望者)、さらにはボスニア難民(国内避難民)という新たな事態に対応できないでいました。
その一方で、難民の数は80年代には1200万人、90年代初期には1800万人と、急激に増え続け、2020年現在UNHCRが支援する人の数は約2250万人、国内避難民が4000万人。全体で65000万人近くになっています。つまり、難民は、とても受け入れ国ごとに対処できる問題ではなくなってきたのです。そこで、UNHCRでは、「出身国中心主義」、「事前対応」、「包括的対応」を柱とする新しい難民保護戦略を打ち出して、増加し続ける難民にあたろうと苦心しています。要するに、難民が出たら考えるという従来のやり方から、難民が出そうな地域に、事前に手を打つという作戦に変更しつつあります。また難民が発生してしまったら、なるだけ発生地域内で保護活動を行うこと、さらに、第三国に移動した難民は、できるだけすみやかに本国に移動させることという原則を通じて、なるべく難民問題の拡大を阻止しようとしているような状況です。さらに、現在UNHCRでは、難民、国内避難民、帰還民、庇護希望者、無国籍者を含めた全被害者を、「強いられた移動」の犠牲者として直接の援助対象としています。
いずれにせよ、戦争や紛争をなくし、各国の経済状態を良くすることが難民発生防止の特効薬であることはわかっているのですが、それができれば苦労はないわけです。最近ではシリア内戦などのように、新たな地域紛争が増え続けている状況で、それにつれて難民の数も増加しています。受け入れ国側の許容量も、すでに限界を越えており、例えばルワンダ内戦が旧ザイール共和国の崩壊につながった例や、シリア難民の受け入れで国論が二分したドイツなどの例を見てもわかる通り、第三国に流入した難民が、その国の政治的、経済的安定を脅かしているといった状況も出てきています。先進諸国は、UNHCRに対する資金協力を積極的に推し進めるなど、以前にもまして難民問題を真剣に捉えてはいるのですが、実際、抜け道のない難問の解決策に頭を抱えているのが現状です。