対人地雷全面禁止条約

中国製対人地雷(イラク)cc Jjccc101

 赤十字国際委員会(ICRC)の調査によると、現在世界71カ国に1億1900万個以上の地雷が埋められ、また、ほぼ同数の地雷が貯蔵されているそうです。さらに過去25年間で製造された1億9000万個の地雷のうち、約3500万個は90年代に生産されたものだと言われています。

地中に埋められた地雷は、50年以上も殺傷能力を保持し続けますから、戦闘終了後、放置された地雷によって死傷する人が後を絶ちません。特に、現在なお戦闘状態が続くアフガニスタンには、1000万個の地雷が埋設されているといわれ、また、過去、内戦状態にあったアンゴラではそれを超える1500万個の地雷埋設が報告されています。これに加え、イラク北部のクルド人居住地区(約400万個)、ベトナム(約350万個)、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア(それぞれ300万個)などの国々で、今なお地雷の被害を受ける一般市民が相次いでいます。このような悲惨な状況に歯止めをかけようと、先進諸国を中心に各国が動きはじめたのがごく最近のことでした。

 そもそも、対人地雷の撤廃を含む軍縮一般に関しては、今までジュネーブ軍縮会議で検討が行なわれてきたのですが、全会一致方式のジュネーブ軍縮会議では、中国やロシアなどの地雷生産国が棄権にまわり、結局最終決定には至らないことが多かったわけです。そこで、96年10月、カナダ政府が呼びかけ人となって、とりあえず対人地雷禁止を支持する国だけで、独自に条約を締結しようとする動きが活発化しました。この一連の動きは、カナダ主導ということで、オタワ・プロセスと呼ばれます。

 97年9月には、オスロで条約交渉会議が開催され、対人地雷全面禁止条約の条文が起草、採択されました。これは、対人地雷の使用、生産、取得、貯蔵の禁止、ならびに、現在貯蔵されている地雷及び埋設された地雷を廃棄する義務を条約批准国に負わせるもので、事実上の全面撤廃条約といえます。

朝鮮半島情勢に敏感にならざるを得ない日本政府としては、当初、朝鮮半島を例外とするアメリカの提案を支持していましたが、結局9月に採択された対人地雷全面禁止条約を全面的に支持して1997年12月に署名を果たしました。

 対人地雷禁止条約は、1999年3月の時点で、批准国が65カ国と、目標の40カ国をこの時点で超えたことから、99年3月1日、正式に発効しました。2020年現在の締約国は164か国ですが、対人地雷の大量生産国である中国やロシアなどは残念ながら参加していません。

 対人地雷禁止条約を批准した国には、発効日から10年間で、今までに敷設した地雷をすべて撤去(10年間の延長期間付き)することや、国内に貯蔵する地雷の個数や種類の報告を行なうこと、さらには、発効から4年間で自国に貯蔵する地雷を破壊することなど、さまざまな義務が課せられます。

しかし、地雷1個除去する間に20個が敷設されているという国連報告もあり、実際、地雷大量生産国の中国やロシアが条約に加盟していないため、条約の実効性には疑問が残されたままになっています。また、費用の面でも、地雷1個の生産コストがわずか400円から1000円程度なのに対して、1個の地雷を除去するのに必要な費用は3万円から4万円。実に数十倍ということになりますから、対人地雷の除去には相当の資金が必要となります。さらに、現在、地雷除去作業に従事している人の数は、全世界で約5000人といわれていますが、彼らが1年間で除去できる対人地雷の数はせいぜい10万個程度だそうです。その一方で、毎年200万個から500万個の地雷が新たに埋設されているわけですから、地球上から地雷を撤去するのは、現状では永久に不可能ということになります。つまり、対人地雷禁止条約批准国が必死で地雷を除去している傍らで、中国やロシアなどが地雷をどんどん輸出しているような状況は避けなければなりません。よって今後は、対人地雷の生産国で、オタワ・プロセスに参加していない国を、どう説得していくかが地雷全廃の鍵となるということでしょう。

 現在日本は、国連の地雷除去活動に対する資金協力として、94年から累計約2920万ドルを提供しているのを初め、カンボジア(500万ドル)や旧ユーゴスラビア(300万ドル)、さらには中米地域(20万ドル)に対する資金協力を行なっています。また、国連地雷除去信託基金への拠出額の累計は、2010年以降1億4000万ドルと、国家としては世界第1位の実績となっています。

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