世界の貧困と人口問題

cc MichaelMaggs

 第二次世界大戦後、東南アジア諸国など、経済が徐々に上向きになってきた国もあったことはあったのですが、開発途上国の大部分は、現在もなお貧困と、貧困からくる人口問題に悩まされつづけています。一方、第二次世界大戦後からしばらくは、共産圏側も、自由主義圏側も、それぞれ第三世界に対する援助を行って来たわけですが、ソ連崩壊後は、共産主義圏内の経済支援体制もストップし、さらに西側先進諸国も国内の経済低迷から来る援助疲れによって開発途上国向けの支援がなかなか伸びずにいるような状態です。「開発が貧困をなくする」と信じて開発援助に取り組んできた各先進国政府や世界銀行なども、ここ数年、開発より貧困の撲滅そのものを早急なテーマとして取り組んできてはいるのですが、なかなかうまくいかない状態が続いています。ここでは、世界の貧困の現状と、人口問題に焦点をあてて、われわれの置かれた立場を把握してみましょう。

1. 貧困のラインを教えてください

 「どういう状態が貧困か」という問いに世界銀行が2015年に答えた定義があって、それによると「収入が一日1.9ドル以下」というが貧困ラインになります。その定義だと2015年時点の極度の貧困層は世界人口の約10%(7億3600万人)だそうです。

 1999年の統計を振り返ると生活費が一日1ドル以下の暮らしをしている貧困者の数は約12億人。生活費が2ドル以下の人口は28億人でした。また、栄養不良や病気などで、100人に6人が生後一年以内に死亡しており、運良く生き残っても、最貧層に属する約9億5千万人、すなわち世界全体の約2割が飢えに苦しんでおり、また、そのうちの約4億人は、特に栄養不良が激しく、健康が著しく損なわれているというのが実態でした。これら99年のデータと比較して、15年間で約20億人が貧困層から脱出したということになりますが、これは、果たして実態を正確に把握している数字なのでしょうか?

 ともあれ、貧困層の半分以上がサハラ以南のアフリカに集中しているという事実、また3割程度を南アジアが占めるという特徴に長らく変化はありません。

2.世界の貧困と飢餓の状況を教えてください。

 最貧国に属するマリ共和国を例に取ると、平均寿命は43歳。乳児死亡率は1、000人中175人(およそ5人に1人)ですが、これを日本の平均寿命78歳、乳児死亡率5人未満と比較すれば、違いがいかに劇的かおわかりでしょう。高い乳児死亡率の裏には、公衆衛生の問題があります。現在、地球上で飲料水設備の恩恵を受けることのできない人口は10億人もあり、それが下水道設備の不備と重なって、度重なる疫病蔓延の温床になっています。飲料水さえ確保できない最貧国では、電力の供給などなおさらのことで、現在20億の人が電気と無縁の生活を送っています。

 さらに、途上国では、その急激な人口増加に伴って、都市部への人口集中が急速に進行しており、都市ではあふれた人口が劣悪な環境での生活を余儀なくされています。例えばインドのデリーでは、人口の半数がスラムに住み、そのうち50万人が路上生活者。ブラジルのサンパウロに至っては、400万人がスラムに住み、そのうち100万人はボール紙で出来たバラックでの生活を強いられていると言われています。

 このような状況を打破しようと、各国とも国連や世界銀行、各種NGOなどの力を借りて貧困層対策や人口の都市集中の回避策を練ってはいるのですが、なにしろ途上国の人口が脅威的なスピードで増加している現在、いずれの措置も焼け石に水といった効果しかないようです。

 一般に世界の国々の貧困の度合いは、2015年時点での一人当たりのGNI(国民総所得)によって以下の4つのグループに分類されています。:低所得国(一人当たりのGNPが1025ドル以下の国・地域)、低位中所得国(1026ドルから4035ドル以下の国・地域)、上位中所得国(40396ドルから12475ドル以下の国・地域)、高所得国(12476ドル以上の国・地域)。そのうち、低所得国は2016年現在で31か国でした。

 しかしながら、このように、単に国力を頭数で割って出てきた数字では世界各国の貧困層の実態は見えてきません。貧富の差を考えると、中所得国の中にも、高所得国の中にも貧困層は存在するからです。第一、統計も病院の設備も整っていないような貧しい国で、どのくらいの人口が貧困や飢餓で苦しんでいるかなど、知るすべもありませんし、人口の増加に悩む途上国も、貧困層の実態を正確に把握することを半ばあきらめているような状態です。

 また。2020年の新型コロナウイルスの影響で高所得国の経済が疲弊しており、貧困層の問題になかなか手が回らないのが実情です。

3.世界の人口は、今後どうなっていくのですか?

 世界の総人口は、99年10月12日に60億人を突破。2011年10月31日に70億人を突破したと報じられました。70億人目の赤ちゃんとして認定されたのはフィリピンのダニカ・カマチョちゃんだということです。

 今世紀半ば以降、世界人口は年率1.7~2.1%の幅で増加しており、40年足らずの間に倍増しています。74年に40億人、87年に50億人そして、99年に60億人ですから、十億人増えるのに十二年から十三年のペースで、それも最近は増加のスピードが速くなっています。人口は今なお1秒に3人、年間7800万人の割合で増え続けているということですから、このままいくと、2030年には85億人、2050年には97億人、2100年には109億人に増えるという予測があります。(国連報告書)

 まあ、人口の伸びは、供給可能な食糧の量に制限されますから、実際の伸びは、これほど急激ではないかもしれません。しかし、人口の伸びと、食糧生産の伸びのギャップが、確実に貧困層の拡大につながっていくということは、避けられないようです。

 一つの家の中で生活できる人数には限界があるように、地球上に住むことのできる人の数にも限界があるという指摘は、ことあるごとになされてきました。1966年には生態学者であるポール・エーリックが『人口爆弾』という本の中で、また68年にはローマ・クラブという国際提言団体が『成長の限界』という本の中で、将来、世界人口の破局的増加によって引き起こされるであろうさまざまな災難を警告しています。地球規模の環境破壊、エネルギーの枯渇、地球の温暖化、オゾン層の破壊、土壌と地下水の枯渇、難民の増大や食糧危機の問題など、当時予言された災難の多くは、現実の脅威として我々の前に立ちはだかっているのです。

 人口の増加を表現する古典的な例に、池をおおう藻のモデルがあります。藻は、毎日倍増して、ちょうど100日目で池全体をおおうと仮定しましょう。我々が藻に気づき始めるのは、藻が池の4分の1をおおう98日目ぐらいからでしょうか。翌日藻は池の半分を埋めつくし、そして100日目、つまり我々が藻に気づいてからわずか3日後に、池は藻でおおいつくされてしまうのです。人口の増加速度は、それほど顕著ではないにしろ、現実問題として認識したときには、すでに抜き差しならない状態にまで追い込まれているということが、これでわかるかと思います。

 いくら人口が増加しても、その一人ひとりが食べていくことができれば問題ないわけなのですが、銀行の複利のように「指数関数的」に増え続ける人口に対して、食糧生産は直線的にしか増えない、つまり、畑を二倍の面積にしても生産高は二倍以上することは難しいというのが現実です。ましてや天然資源は、一回使ってしまえばそれっきりです。つまり、人口の増加は、限りある資源を食いつぶす時間をそれだけ早めるということを意味するのです。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、2019年に発表した2050年までの食糧増産率の見通しによると、低所得国の生産量が2050年には2015年の2.3倍となり、生産量の伸びが頭打ちの高所得国(1.1倍)と中所得国(1.4倍)の不足分を補って、全体では1.5倍の増産になると予想していいて、増加した人口を十分に賄える量の生産が見込まれるとされていますが、これは世界の気温が平均2℃上昇するという仮定ではじき出された数字です。実際には、気温の上昇とともに、ハリケーンの大型化や干ばつの影響もあるでしょうし、水資源をどう調達するのかといった問題もあるでしょうから、少し楽観的だと思いますが、一番問題なのは、飢餓人口が食糧を手にすることを阻む要因があるということです。

 2020年現在でも、世界の食糧生産量を単純に人口で割った値は、全世界の人を食べさせていけるだけの量があるということです。それでも現在の飢餓人口は世界全体で8億人を超えています。紛争、経済的失策、交通、通信、ロジスティックスなどのインフラの不足など、単純な食糧生産量以外のハードルが食糧の需給関係のアンバランスを生んでいるのです。

 結局は紛争の終結、政治経済の安定、流通経路の確保などの地道な対策の一つ一つが、世界の人が食べていける土台を作っていくのでしょう。

4.増え続ける人口の問題を、各国は真剣に受けとめているのでしょうか?

 世界各国は、「何かしなければいけない」という認識では一致しているものの、具体的な行動計画は、なかなか出てこないのが現状です。94年9月にカイロで開催された国際人口・開発会議のテーマも、直面する過度の人口増加に対する具体的な行動計画でした。しかし、会議では人工中絶に対する是非のみがクローズアップされた感があります。採択された「新行動計画」の中身は、「生殖に関する健康権」や、「女性の地位向上」など、華々しくはありますが、具体性に欠ける概念の羅列に終わってしまいました。

 それでも94年のカイロ会議以降、ブラジルの国家人口開発委員会を筆頭に、アルジェリア、ベリーズ、パラグアイ、タジキスタンなどで、人口問題に関する委員会が省庁内に設けられるなど、人口問題に関する意識が高まってきていることは確かです。ベネズエラでは、早期妊娠予防国家計画によって、若年層の妊娠を防ぐ実質的な行動計画も進んでいます。結局、この様な小さな努力の積み重ねが、将来の危機防止に備える、一番確実な方法なのかもしれません。

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