モルディブ共和国

出典:外務省HP 

 インド洋に浮かぶモルディブは、大小約1200の島々からなる南北に細長い諸島国家です。珊瑚礁に囲まれた島々の美しさと、海水の透明度の良さには定評があり、1981年以降、同国が観光客の誘致に力を入れているせいもあって、最近は日本人観光客もかなり増えているようです。

1.モルディブの歴史を教えてください

 インド洋貿易の中継点として、早くから海上貿易関係者に知られていたモルディブは、12世紀ごろまでに海上貿易に携わる多くのイスラム商人によってイスラム化されます。15世紀に始まるヨーロッパの大航海時代に先駆けること実に300年、イスラム商人は、すでにアフリカ東岸からアラビア半島を通り、インドに至るまでの海上交易路を確立していたわけです。13世紀に登場したモロッコの旅行家イブン・バトゥータは、西はモロッコから東はモルディブまでの大旅行をして、詳細な旅行記を書いたことで有名ですが、彼は、旅の最終目的地であるモルディブが気に入って、そこで妻を娶り、長期にわたって滞在したほどでした。このことからも、当時のモルディブが、イスラム圏に深くかかわっていた事がわかるでしょう。

 モルディブは、16世紀にポルトガル、17世紀にはオランダ、1887年にはイギリスの植民地として間接統治を受けますが、いずれも直接支配されること無く、島民の代表者であるスルタンによる支配が続いていましたから、その意味では有史以来、一度も他国の統治を受けなかった国であるということができるでしょう。

 1965年にイギリスの保護領から完全独立したモルディブは、68年にスルタン制を廃止して新憲法を制定。イブラヒーム・ナシール氏を初代大統領とする共和制を始めました。78年からはマウムーン・アブドゥル・ガユーム大統領が就任して、長期政権を担いますが、2004年には長すぎる政権に嫌気がさした野党が民主化を要求。2008年には大統領暗殺未遂事件も起こるようになって、ガユーム大統領は民主化の要求を承認。2008年末に民主化後初めての大統領選挙を行い、モハメド・ナシード大統領が当選。30年にわたるガユーム長期政権が終了しました。

 2013年の選挙ではアブドゥラ・ヤミーン大統領が当選しますが、ヤミーン大統領は中国寄りの政策をとって2016年にはイギリス連邦を離脱します。この親中政策への転換には反対を表明する人が多く、ヤミーン大統領自身も2015年に暗殺未遂事件に遭遇します。結局2018年の選挙では中国と距離を置き、インドとの結びつけを強める政策を打ち出したイブラヒム・ソリ大統領が選出され、中国依存の政策が修正されました。

2.海上中継地点としてのモルディブの地位は?

 さて、モルディブの南約700kmの地点には、現在アメリカ海軍の中継基地ディエゴ・ガルシア島がありますが、イギリス海軍も60年からモルディブのガン島に、インド洋の中継基地を構えていました。しかし68年、イギリスはスエズ以東から軍を撤退させることを宣言。それまでイギリスの影響下にあった中東湾岸諸国も、70年代初期に次々と独立したため、東方展開の必要がなくなったイギリス海軍は、76年にガン島からの撤退を決定します。それを聞いて喜んだのはソ連でした。ご存知の通り、帝政ロシア、ソ連ともに、ペルシャ湾やインド洋などといった南方への出口を求めてきましたから、「イギリス撤退の後は、どうかこのソ連にガン島を使わせてやってください」と、たくさんのお土産を持って、粘り強く交渉します。このときモルディブがソ連海軍によるガン島使用を承認していたら、アメリカ海軍とソ連海軍が700kmの距離で相対することになり、かなりの緊張関係がインド洋で生まれたはずですが、結局81年、モルディブはソ連の再三の申し出を断り、ガン島を観光地として整備することを決定しました。

 モルディブの社会は、その温暖な環境と同様、非常に穏やかで、めったに暴動などは起こらないのですが、やるときは派手です。1988年、ルトゥフィーというモルディブ人貿易商が大統領暗殺を計画。スリランカのタミル人傭兵約200人を雇って、クーデターを起こすという事件が発生します。この時点でモルディブは軍隊を持っていなかったの(2006年にモルディブ国防軍が結成された)で、このクーデターは、政府の要請を受けたインド軍によって撃退されましたが、この事件と、2008年と2015年に起きた大統領暗殺未遂事件が近年モルディブの中で起こった、事件らしい事件といえます。基本、平和な島国なのですね。

 さて、現在のモルディブにとっての最大の関心事は、地球温暖化です。なにしろ、モルディブのほとんどすべての島々が珊瑚礁ですから、温暖化の影響で北極や南極の氷が溶け、海面が1メートル上がったとたんに居住不可能になってしまいます。今のまま放置すると、温暖化はこれから10年ごとに0.3度進み、海面は10年ごとに6センチ上昇、21世紀末には最大1メートル上昇するということですから、このままでは、モルディブの寿命は100年ということになってしまいそうです。

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