チリ共和国
出典:外務省HP
1.独立後のチリの歴史を教えてください。
1778年、ペルー副王領からチリ総督領として分離したチリは、南米のスペイン植民地に先駆けて1810年、植民地からの一方的な独立を宣言して自治政府を作ります。スペインはこの独立を阻止するためにペルー副王に命じて軍隊を派兵し、いったんは独立勢力を鎮圧するのですが、チリの独立指導者オイギンスはアルゼンチンのサン・マルティン将軍の協力を得て勢力を盛り返し、1818年に独立を達成。初代大統領に就任します。
独立達成後のチリは、他の南米諸国と異なり、内部抗争も、政変も極端に少なく、長期間にわたって安定し、特に1830年からは、ヨーロッパ型の立憲政治を確立していました。
経済面でも、豊富な硝石資源をバックに、順調な資本の形成を行ってきましたが、1879年、硝石資源の開発をめぐって、ボリビアとペルーの連合軍と戦争(太平洋戦争)に突入して国力が弱体化。その間、硝石鉱山は、イギリス資本の手に渡ってしまいました。20世紀初頭に化学肥料が開発されてからは、硝石の輸出に依存するチリの経済も低迷。代わりにアメリカ資本が銅鉱山の開発を進めましたが、その銅も、1929年の世界恐慌で価格が暴落し、低迷するチリ経済にさらに追い討ちをかけました。
人間貧すれば鈍するもので、経済危機を迎えたチリでは30年代初頭、政治的混乱が続きました。従来自由貿易主義を保ってきたチリが保護主義に転換したのもこのころです。しかし、やってみるもので、輸入を抑えて、自国の産業振興を行ったチリの経済は次第に回復。1950年代前半までは、政治、経済ともに、比較的安定していました。
しかし、チリは人口も少なく、市場も限られているわけですから、産業振興策も次第に頭打ちになってきます。チリでは1950年後半から60年代全般にかけて食糧などの輸入が増し、国際収支は常に赤字状態で、インフレは慢性的になり、国民の懐を苦しめていました。
そんな状況でよく登場するのが労働者の味方、社会主義です。南米で一番早く独立を成し遂げたチリは、社会主義を宣言するのも南米で一番乗りでした。1970年、選挙で選ばれたアジェンデ社会主義政権は、アメリカ資本が持つ銅鉱山や民間銀行を国有化するという、思いきった行動に出ます。当然アメリカは怒ります。チリ国内の資本家も怒ります。よって、ラテン・アメリカ初の社会主義政権となったアジェンデ政権は、3年も経たないうちに崩壊してしまいます。
1973年の軍事クーデターで政権の座についたピノチェト大統領は、自由主義経済の再建に取り組みました。アメリカとの関係も修復し、国有化された企業も民営化に戻し、資本と貿易の徹底した自由化を断行しました。その結果、76年から経済は上向き、失業者もインフレも次第に縮小して行ったとされているのですが、その一方でピノチェト大統領は「死の部隊」と呼ばれる武力組織や秘密警察などで社会主義者や軍政に反対する市民を徹底的に弾圧。結果3万人ともいわれる犠牲者を出し、数十万人が強制収容所送りになり、国民の1割が国外に亡命するというとんでもない事態になってしまいました。
その様な混乱に追い打ちをかけるような出来事が80年代に起こります。ラテン・アメリカ諸国に広がった累積債務問題でした。チリも通貨・経済危機の影響を免れず、経済は悪貨の一途をたどり、1988年の国民投票でピノチェト大統領が解任される事態に発展しました。これで、15年の長期政権を誇ったチリの軍政は幕を閉じ、90年からは民政に復帰。以後4期20年にわたってコンセルタシオン・デモクラシアという党の連合体が政権を担うことになります。この時期にチリはピノチェト軍治政権で傷つけられた経済を立て直すための政策を打ち出し、成長率も1990年以降上向きに転じましたが、与野党の勢力が拮抗する国会で有効な政策を実行に移すことができず、2009年の選挙では20年ぶりにピノチェト氏の影響を受ける右派政党からピニェーラ大統領が当選。2013年の選挙では再びコンセルタシオン・デモクラシア側(新多数派)のバチェレ前大統領が当選、それもつかの間2017年の選挙ではまたピニェーラ前大統領が当選するという、安定しない政局が続きました。
もちろん、このような状況で経済が安定するはずもなく、2014年には経済成長率が1%台にまで下落するなど、チリ経済は疲弊し、OECD諸国中最悪と言われるほど貧困率と経済格差が拡大していきます。
そんな中、2019年10月、政府が首都サンティアゴの地下鉄の運賃を値上げしたことに反対するデモの一部が暴徒化。暴動は全市街地に拡大して首都の機能が停止する事態に発展しました。これに対してピニェラ大統領は軍を出動。軍と暴徒の小競り合いは2か月間に及びました(チリ暴動)。それに追い打ちをかけるように新型コロナウイルスの感染拡大がさらに経済を鈍化させていて、いつになったらこの低迷から抜け出せるのか出口が見えない状態です。