シリア問題
シリアのホムスで発生した反政府デモ(2011年4月) cc Bo Yaser
1.アラブの春とシリア内戦
2010年に、チュニジアの民衆蜂起がきっかけとなった民主化運動は、エジプト、リビアの政変を促してアラブ世界に急速に広がり、抑圧された民衆が立ち上がって民主主義を勝ち取る姿は「アラブの春」ともてはやされましたが、その民主化の波はシリアにも飛び火して、長期にわたって続いているバース党一党独裁に対する反対勢力として活動を始めます。
民主化と聞いてアメリカが刺激されないわけがありません。当初は政府軍と民兵組織の小競り合い程度の対立関係だったシリア内戦は、次第にアメリカが擁護する反政府組織と、ロシアなどが強力に後押しをするアサド政権側とに分かれ、特に反政府側が自由シリア軍という武力組織を結成する2012年以降深刻な内戦状態に突入します。
内戦状態にシリアに目を付けたのがイスラム国(IS)でした。ISは2013年に、シリアの反政府組織のヌスラ戦線を取り込んでシリア国内に勢力を拡大。2014年には米国をはじめとする有志国がISへの空爆を開始します。
つまり、この時点でシリアでは政府軍と、反政府勢力、それとイスラム国勢力が三つ巴で戦闘を繰り返していたのです。2015年には、当初イスラム国と歩調を合わせていた反政府勢力がイスラム国との戦闘に参加。さらには、クルド人武装組織がアメリカ軍と共同でイスラム国への攻撃を開始します。これにはトルコ軍も加わり、イスラム国に対して空爆を行いますが、同時にトルコ政府の宿敵であるクルド人勢力も空爆したことで、クルド人独立派を刺激しました(クルド人問題参照)。イスラム国に対する空爆にはロシアも参加。シリア国内の内戦では敵同士だったアメリカとロシアが、共通の敵であるイスラム国への空爆に協力するという複雑な関係でした。
イスラム国は、2017年にはシリアとイラクの拠点のほとんどを失い、2019年に指導者のバグダーディーが殺害されてからは、ほぼ影響力を失います。その裏で、一時は影響力を失っていたシリア政府は、2019年にはシリア国内の支配地域を大幅に奪還して、ロシアやイランの協力を得て、再びシリア内の反政府勢力の撲滅を目標に掲げているため、シリア内戦の終結の糸口はつかめていないのが実情です。
2.シリア難民の現状は?
2011年より次第に激化するシリア政府軍と反政府勢力の戦闘、2013年から2017年まで続いたイスラム国にまつわる戦闘、さらにはイスラム国崩壊後に再開した政府軍と反政府勢力の対立、それに加えてクルド人勢力撃退のために越境攻撃を加えるトルコ政府軍。それらすべてが民衆の命を奪い、家を奪い、生活のすべを奪い、そして将来への希望を奪いました。
2019年現在でシリア国内に避難している国内避難民は660万人そのうち460万人が危機的な状況にあるということです。レバノン、ヨルダンやトルコなどの近隣諸国やヨーロッパなどに渡った難民は100万人に上り、その途中で命を落とす人たちが後を絶ちません。また、シリア難民の受け入れ国となっている近隣諸国も、すでに受け入れが許容範囲を超えており、新たな社会問題となっています。