イスラムの宗派

スンニー派、シーア派のほかにも色々ある

cc Muhammad Mahdi Karim

1.イスラム教のスンニー派とシーア派の違いは何ですか?

イスラム教には、大まかに分けてスンニー派とシーア派の2つの分派がありますが、数の上ではスンニー派が全体の9割強を占めます。両派ともコーラン(イスラム教の聖典)とムハンマド(マホメット)の言行(スンナ)を信仰の基礎とする点では同じですが、スンニー派がコーランとムハンマドの言行のみに重点を置くのに対し、シーア派は、それに加えて最高指導者(イマーム)の行なった教義解釈をも信仰の対象としますから、宗教法学者の指導権限が大きいのが特徴です。

イスラム教の分派は、後継者選びの権力争いがきっかけで起こりました。預言者ムハンマドの死後、2代目までの後継者選びはスムーズに行なわれたのですが、3代目の後継者として選出されたウスマーンは、あからさまに自分の親族(ウマイヤ家)に権力を集中させたため、それを不満とする信徒の一部との間に亀裂が生じたのです。そこでウマイヤ家の独裁に反対する一派は、ムハンマドのいとこである4代目の後継者アリーを理想的な指導者とし、ムハンマドの死から続いた3代の後継者を批判します。このとき、アリー支持に回った信徒たちが、シーアト・アリー(アリーの党派)つまりシーア派と呼ばれるようになったわけです。

シーア派は、そもそもムハンマドの血を引いたアリーを、「神の定める正統な後継者」と定義したため、アリー以後12代続いた子孫も、絶対過ちを犯さない神聖な最高指導者として特別の権威を与えられ、またそれに続く指導者も同等の宗教的権威を与えられることになりました。よって、シーア派は別名「12イマーム派」とも呼ばれます。シーア派国家のイランで、宗教指導者が絶対的な政治権力を握る傾向があるのは、このような宗教的権威が温存されているからです。また、シーア派には「隠れイマーム(ガイバ)」という思想があります。末法の世になると救世主(マフディー)が現れるというこの思想は、よくイスラム革命時のホメイニ師の出現と重なり合わせてイラン人の中で語られたものです。逆にホメイニ師の絶対的な指導力は、シーア派の、このような思想の中に隠されていたのかもしれません。

2.イスラム教の宗派にはスンニー派とシーア派だけしかないのですか?

大まかに見て、もう一つのくくり方があって、スンニー派にもシーア派にも属さない「ハワーリジュ派」というのがそれです。「ハワーリジュ」というのは、直訳すると「分離」という意味ですから、文字通り分離主義者です。実は、アラビア半島の北東部に位置するオマーンという国の宗教はイスラム教イバード派と呼ばれ、スンニー派でもシーア派でもない一風かわった国です。

また、シーア派の中にも様々な宗派があります。多数派は「12イマーム派」です。これは、ムハンマドの第四代目の後継者アリーから12代続いた後継者それぞれに対して、絶対過ちを犯さない神聖な最高指導者としての特別の権威を与える宗派ですが、12人のうち、7人目のイスマイールの後継者に特別の権威を与えるイスマイール派(7イマーム派)や、5人目のザイドの後継者しか認めないザイド派がシーア派の中の分派として存在します。このうち、ザイド派は、現在のイエメンの国教となっています。

また、イスマイール派(7イマーム派)には、シリアの少数派であるアラウィー派やレバノンの少数派であるドルーズ派など、多数の分派があるのが特徴です。

イスラム教の主な分派

・スンニー派(全体の9割)東南アジア、アラブ諸国他
・シーア派(全体の一割弱)イラン、イラク、インド他
12イマーム派 シーア派の多数派
イスマイール派 (7イマーム派)
ドルーズ派 レバノンの一部
アラウィー派 シリアの一部
ザイド派(5人目のイマームから分岐)イエメン
・ハワーリジュ派 イバード派 オマーン

3.イスラム原理主義とはどのようなものですか?

近代になって西欧とイスラム世界の差は、政治的にも経済的にも歴然として来ますが、イスラム世界が近代文明から取り残され、西欧文明に飲み込まれていくのは、我々がイスラムの教えに反する行動をしているか、もしくは西欧文明自体が「悪」なのかどっちかだという考えがイスラム教徒の中から出てきます。つまり、神が人類に最後の預言を与えるためにムハンマドを遣わせたのだから、ムハンマドの教えは、非の打ち所のない「完成品」であり、物事がうまく行かなかったり、世の中が乱れるのは、「完成品」に背いた行動をとるからだというわけです。そこで出てきたのが「イスラムの原点に帰ろう」という運動、いわゆる原理主義運動でした。

この原理主義運動というのは、もともとイスラム教が始まった時に存在しなかった新しい価値観に対して、個人的にどう対応して行くべきかという教義中心のものでしたが、次第に反米、反イスラエル、反西欧主義等、イスラム社会を政治、経済的に脅かすものに対する行動が主体になっていきます。つまり、西欧文明の流入によって乱れたイスラム社会を、イスラムの原点に帰ることで正し、かつ「乱れ」の原点である西欧社会に挑戦していこうというのが、現代版原理主義という訳です。

しかし逆に言うと、現状に矛盾を感じない者は、「原点」に戻ろうとしなくて良いわけですから、結果的に現存する原理主義組織のほとんどは、現行の政治、社会に不満を持つ貧困層や若年層によって支えられており、その行動も直接的、過激的なものを主体とする傾向があるのです。つまり、マスコミで言う原理主義者とは、平たく言うと、狂信的過激派といったところでしょうか。

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